映画「碁盤斬り」を観てきた。
草彅剛主演の時代劇映画だ。
落語がモチーフであるから、物語がどのように進むのかは、ある程度予測できるだろう。
さて、今回私が楽しみにしていたのは映像である。
というのも久しぶりに観る時代劇だから。
多分暗い。
どこまで暗いのだろうと期待していたが、予想通りちゃんと暗かった。
ちゃんと暗かったとは何を指すのか。
これは賛否両論ある「時代劇は暗い」
映像が暗く見えにくいため、人によっては目に負荷が掛かる映画となる。
だがしかし、現代のように明る過ぎるのでは興ざめだ。
さぁさぁと逸る気持ちでスクリーンを凝視していると、お見事、レンブラントだ。
日中の明るさから、室内の暗さ。
これである。
夜など、真っ暗な中に行燈のそばだけ、提灯のそばだけが明るい。
ああ、墨色の濃淡で、ちゃんと暗くて美しい。
レンブラント・ライティング(鼻を中心に陰影がはっきりと分かれる)により、
國村隼の老獪な皺を、
中川大志のつるっとした気の弱さを、
清原果耶の引き締まった口元に意思の強さを、
小泉今日子の頬のゆるみが迫力を、強調してくる。
そして、草彅剛。
あの鼻の高さと彫りの深さだからこそ、レンブラント・ライティングが冴えまくっていた。
くっきりと光と影である。
絵画そのものだ。
事前に見ていた、暗闇に草彅の横顔が浮かび上がるポスター。
既に暗影増し増しだったので期待大だったが、期待以上に映画では沢山のレンブラント・ライティングを堪能できた。
もちろん時代劇なので、浮世絵的な表現も見られる。
碁を打ちつつ、夕焼けに燃ゆる赤富士。
父・草彅が、娘・清原にあることを告げるシーンは、橋の上で斜に振る雨が実に浮世絵的だった。
だがやはり、光と影なのだ。
障子越しの光の柔らかさはフェルメールで、
カラヴァッジオな狂気を瞳に宿しつつ、
ドラマチックな人の表情はレンブラント。
日本の時代劇に、西洋絵画的な楽しみも見つけることが出来る映画と感じた。
取り立て新しい技法ではないが、美しいものは美しいので仕方がない。
特にバロック絵画がお好きな方は、是非劇場で鑑賞することをおすすめする。
余談
ロト6の時に確信していたが、草彅剛はひげが似合う。
えらが張り、頬が高くこけているシャープさと、長く伸びたひげは相性が良い。
ひげに、ぼさぼさの月代、メイクダウンしているにも関わらず、清涼で凛々しいのは目力のせいか、姿勢の良さか。
そして怒りのときだけ表れる目の下の一筋の皺。
ゴルゴ13のように、一気に劇画タッチになり凄みが増す。
年齢を重ねたからこそできる技だ。
低い位置での立ち回りで見せる、下半身の強さも見逃しなく。
【HP追加分】
さてこちらホームページでは、映画脚本の加藤正人作の小説もご紹介したい。
映画では書ききれなかった部分が詳細に書かれているので、映画鑑賞後未消化に感じた部分がある方は読まれることをおすすめする。
私は特に番頭・徳次郎に対して思うところがあったのだが、小説ではきちんと回収されている。
また映画では、絹の祝言も手早く進むので、吉原の橋での決別に対していかがなものかとも感じていた。
こちらも祝言に至るエピソードが書かれていた。
何よりも最後、格之進が旅立った後、そして更にその後10年後の物語を読むことが出来る。
格之進と源兵衛の友情はどうなるのか。
きっと読後、納得のいく結果になるのではないだろうか。